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新規助成団体 THE BIG ISSUE 掲載記事

DVへの包括的な支援。
加害者の更生プログラムと、被害を受けた母と子、その関係回復のプログラム
-NPO法人 RRP研究会

「児童虐待防止法」に、夫婦間の暴力を目撃させることも心理的虐待になると明記されている通り、夫から妻への暴力は子どもにも深刻な影響をもたらす。
このような暴力によって破壊された母子関係の回復や加害者の更生など、DV支援の中でも見過ごされがちな部分に焦点を当て、プログラムを実施してきたRRP研究会の二人に話を聞いた。

DV加害者更生プログラム 受講を強制されない日本

画像:代表 信田さよ子さん
代表 信田さよ子さん

01年、「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(DV防止法)」が施行された。その中には、国及び地方公共団体は、加害者更生のための指導方法に関する調査研究の推進にも努めるべきであると定められている。これを受けて04年、東京都は内閣府からの委託事業として試験的に「DV加害者更生プログラム」を施行した。

その開発にかかわった専門家チームの一人が、現在「RRP研究会」代表を務める信田さよ子さんだ。原宿カウンセリングセンターの所長でもあり、アディクションやDV、児童虐待などに悩む人たちのカウンセリングを行ってきた。

信田さんによれば、実施した「DV加害者プログラム」は、カナダのブリティッシュ・コロンビア州認定の「Respectful Relationships Program(尊重し合える関係づくりのためのプログラム)」をモデルにしたという。「これはDV被害者支援の一環として、加害者の行動修正を図り、“男らしさ”にしがみついた考え方を変えていくプログラムで、過去の暴力の責任をとり、暴力を用いずに敬意をもってパートナーとかかわれるようになることを目的としています」

ところが、事業は1クール実施した段階で打ち切りとなった。そこでプログラムを継続させるために、開発にかかわったメンバーが中心となり、プログラム名の頭文字を取った「RRP研究会」を設立。引き続き、現在まで「DV加害者プログラム」を実施している。

米国などと異なり、日本にはDV加害者にプログラムの受講を裁判所が命令する制度がない。そのため、自らの意志で参加する人が対象だ。「このままだと妻が離婚すると言っている」「別居している妻に帰ってきてほしい」といった理由で訪れる人がほとんどだが、「動機はどうであれ、プログラムにつなげることが大事」だと信田さんは言う。初回面接費3000円と、全12回のプログラム費用3万6000円は加害者本人が負担する。

母子関係こわすDV、母と子の同時並行プログラムで関係回復

写真:理事 春原 由紀さん理事 春原 由紀さん

「RRP研究会」は「DVにかかわる人たちの包括的支援」を目的としているので、支援対象は必然的にDV被害を受けた母と子に広がってきた。研究会のメンバーに、武蔵野大学心理臨床センター子ども相談部門で子どもの臨床を続けてきた春原由紀さんも加わった。

父親が暴力をふるう家庭では、直接暴力をふるわれた子どもはもちろんだが、母親への暴力を目撃した子どもにも深刻な影響がもたらされる。母と子にはどのような影響が現れるのか、春原さんに聞いた。

「母親は、『お前が悪いから』と暴力の責任を負わされ、支配され続けることで、うつ状態になったり、PTSDのような精神症状があらわれることがあります。『私はだめだ』と自信を失い、自己評価がとても低くなりがちです。そして、家事や育児の力も弱まり、判断力や決断力も弱まってしまうのです」

子どもは「家の中で、いつでも安心して安全に生活することができないため、落ち着きのなさが目立ってくる」という。さらに、父親と母親の関係から「暴力はコミュニケーションの手段である」とか「強いものは弱いものを支配してよい」などと学習してしまった子どもは、友だちとの関係や、その後の人間関係の結び方にそうした価値観が影響してくる。

「学校にいても安心して勉強に取り組めず、授業中も上の空だったり、言われたことを正確にキャッチできなかったりすることも見られます。暴力をふるう父親と離れて、生活が安定したとたん、成績が急激に伸びた子もいます」

このような母子がDVで破壊された関係を回復するために、「RRP研究会」では08年より、父親と離婚したり、別居している母子を対象に「母と子のコンカレント(同時並行)プログラム」を実施している。母と子がそれぞれのグループに分かれ、7回にわたって同じテーマのグループワークを並行して行うもので、プログラムを開発したカナダのオンタリオ州ロンドン市では、女性相談所と児童相談所のスタッフが協力して行っている。

「怒りの火山」、暴力体験の共有。ワークを通して学ぶ

写真:「怒りの火山」のワーク「怒りの火山」のワーク

このプログラムを通して子どもたちはどんなことを学んでいるのか、春原さんに聞いた。

「プログラムには大きく5つのテーマが含まれています。1つは、暴力について考えていくこと、2つ目は行動の責任について考えていくこと、3つ目は感情について考えていくこと、4つ目は問題解決の方法、5つ目は安全に生活するための準備です。難しく聞こえるかもしれませんが、子どもたちは驚くほど柔軟に理解していきます」

感情について考える中に「怒りの火山」というワークがある。大小のカップなどを重ね、アルミホイルで覆った山の頂に作った穴の中にコップを置き、「溜め込んだ怒りの気持ち」を表す粉せっけん、重曹、食紅を次々と入れていく。そこへ「ちょっとしたきっかけ」を表す酢を加えると、真っ赤な泡がぶくぶくと噴き出し、怒りが爆発する。この怒りを解消する方法を考えながら、泡を鎮めていくというものだ。

「それまで、妹にからんでは怒らせていた男の子は、プログラム終了後、カッとなってパニックを起こした妹を見て、『○○ちゃんにも怒りがいっぱいあるんだね。僕が酢になっていたんだね』と話してくれました」

また、暴力についての体験を話し、仲間と共有し、暴力を用いない問題解決方法があることを学ぶワークもある。

ある小学生の男の子は両親が別れる時、父親から「俺はママに追い出されるんだ」と言われた。男の子は「どうしてパパを追い出したんだ」と母親を責め、母親はそのたびにカッとなり、親子関係がうまくいかなくなって相談に来て、プログラムに参加することとなった。

「プログラムの途中で、男の子は『パパのことを悪く言うから、行きたくない』と言い出しました。実際は『暴力はいけない』と伝えただけで、父親のことには一切触れていません。私たちは、暴力という行動を否定しますが、父親の人格を否定することはないのです。男の子は、暴力と暴力をふるった父親とを分けてとらえることができなかったのです。それでも通い続けた結果、男の子は『暴力があるからパパと一緒に暮らせないんだね』と状況を正しく認知できるようになり、母親も、子どもの話を冷静に受け止められるようになりました」

毎回、終了の15分前には、子どもグループのスタッフが母親グループに、その日、子どもたちが取り組んだ内容を伝える。こうして共通の話題が生まれれば、母と子のコミュニケーションが復活し、母が子の回復を援助しやすくなるからだという。

プログラムの普及へ。地域での協力が課題

このように、DV被害を受けた母親を子どもと一緒に支援するプログラムは母子双方にとって有効であると考え、RRP研究会では、11年にはファイザープログラムの助成を受けて、地域との連携強化に取り組んだ。女性センターや児童相談所にも足を運んだが、「加害者に居場所を知られないように保護しなければならない被害者を紹介するのは難しい」として、なかなかプログラムにつなげることができなかった。被害者が信頼を寄せている公的機関の職員や福祉関係者から、いかにして参加を促してもらうかが今後の課題だ。

DVというと被害者支援で終わりがちだが、その陰で見過ごされてきたのが加害者プログラムと母子関係だと信田さんは指摘する。「母親は被害者であると同時に子どもを育てる主体でもあり、場合によっては子どもを虐待しかねない二重性をはらんだ存在。でも実際は被害体験に圧倒されて、子育てまでには目が行っていないのが現状です。このプログラムは、そんな母親同士が交流を深め、支え合うきっかけにもなっているし、暴力にさらされた子どもへの支援は、次の世代の暴力をなくすことにもつながります。この取り組みを、もっと多くの方に知ってほしいと願っています」

NPO法人 RRP研究会

DVの被害者を支援し、加害者についての調査研究・更生教育を行うことでDVを減らすことに貢献するため、04年に任意団体として研究会を立ち上げる。内閣府の委嘱事業として東京都が04年度に施行した「DV加害者更生プログラム」の開発・実践にかかわった精神科医、臨床心理士が中心となって構成。07年、NPO法人の認証を受ける。
05年度からは、研究会によるDV加害者プログラムの継続・改善を進めるとともに、DV被害を受けた母と子を支援するためのプログラム、DV加害者である父親プログラム、DV加害者に対する認知行動療法などをテーマとした数々のワークショップを開催。専門家の育成にも力を入れている。

〒150-0001 東京都渋谷区神宮前6-24-4観世ビル3F
原宿カウンセリングセンター気付 RRP研究会
TEL&FAX : 03-5485-3636
ホームページ: http://www.rrpken.jp/

※名称・団体名はTHE BIG ISSUE掲載当時のものです。

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