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新規助成団体 THE BIG ISSUE 掲載記事

山谷で28年、無料診療と生活相談。
いま、生活困窮状態にある発達障害者の支援プログラムづくりへ
-認定NPO法人 山友会

東京都の台東区と荒川区にまたがる「山谷」と呼ばれる地域は、かつて日雇い労働者とドヤ(簡易宿泊所)で知られた。
しかし高齢化が進み、生活保護受給者が増え、今や「福祉の町」と化している。
そんな山谷で30年近く支援を続け、発達障害者支援にも取り組み始めた「山友会」に話を聞いた。

日雇い労働者はわずか。山谷は今、高齢者と障害者の町

画像:代表 ルボ・ジャンさん 代表 ルボ・ジャンさん

「山友会」は、アルコール依存症者の回復施設「山谷マック」でボランティアをしていたウィリアム・グリム神父によって、1984年に創設された。

現在、代表を引き継いでいるルボ・ジャンさんによれば、「当時は玉姫公園そばのネズミがたくさん出る木造二階建てで、日雇い労働者や路上生活者の無料診療や生活相談、炊き出しをしていた」という。

「ところが、ごみを散らかしたり、来所者がけんかで騒いだりしたせいで近所から苦情が出てしまい、寄付を募って89年に現在の鉄筋コンクリートの建物を建てました」

山谷の変化も肌で感じてきた。「以前は日雇いの男ばかりで、パトカーもタクシーも怖がって寄りつこうとしなかった。ところが、隅田川沿いのブルーテントが減り始め、今では日雇い労働者はほんのわずか。高齢者と障害者とヘルパーばかりの町になりました」

現在、月曜日から金曜日と第3・4土曜日には、ボランティアの医師らと常勤スタッフの看護師による無料診療を行っている。問診や血圧測定、心電図検査などはできるが、くわしい検査が必要な場合は、ボランティア医師が紹介状を書いて役所へ行くことを勧める。

併設する「相談室」では、このような人からの相談を受けて生活保護申請の付き添いをしたり、救急搬送に同乗したりしている。相談室長を務める薗部富士夫さんは、7年前まで建築関係の会社で営業の仕事をしていた。

「事情があって仕事を辞めた時、たまたま求人を見てスタッフになりました。今日から売り上げを気にしなくていいやと安心していたら、とんでもなかった。『ああしとけばよかった』という後悔は許されない世界。その人の一生が変わるかもしれないし、1日の遅れで死んでしまうことだってあるかもしれない」

初めは「この人を路上に戻さないように」との一心から「役所に行けば何とかなる」と信じてやってきた薗部さんだったが、そのうち「せっかく生活保護を受給して施設に入っても、トラブルになって路上生活に戻ってくる人が多いことに気づいた」という。

「長く孤独な路上生活で将来を見据える心をなくしているので、いやなことがあったら『いつ死んでもいいや』と、すぐあきらめてしまう。誰かが見守って安心感を与えることで、『仕事をしたい』『病気を治したい』という希望をもってもらう必要があります」

隅田川へアウトリーチ、無縁状態の人の受け皿「山友荘」も運営

写真:相談室長 薗部 富士夫さん(写真左)/理事 油井 和徳 さん(写真右)相談室長 薗部 富士夫さん(写真左) / 理事 油井 和徳 さん(写真右)

理事の油井和徳さんによれば、山友会では無料診療につなげるために、フードバンク「セカンドハーベストジャパン」から提供を受けた食品を使っての炊き出しや、ボランティア医師と一緒に隅田川沿いのブルーテントを回るアウトリーチ活動(※)にも力を入れている。

そこでもまた、「高齢者や障害者、重度の疾病や慢性疾患を抱えた人など、中長期的なフォローが必要な人」が増えているという。その受け皿として、09年から「山友荘」の運営も始めた。「もともとドヤだったところをバリアフリー仕様に改装し、20室を地域生活が困難な単身者のための中間施設、1室を緊急シェルターにしました。要支援、要介護1・2レベルの介助が必要な低所得者を受け入れる施設が少ないため、山友荘はほぼ満室です」

そんな支援を続ける中で、新たな「生きづらさ」を抱える、ある傾向をもつ人たちの存在が気になり始めたと油井さんは言う。

彼らには「他者との関係を結ぶ上での困難さ」「自身の世界観・価値観や思考・行動パターンなどへの執着」といった傾向が見られるのだという。

たとえば、ある30代の男性は仙台の実家で家業を手伝っていたが昨年3月11日、東日本大震災で被災し、借金を抱えてしまった。以来、父との関係も悪くなり、仕事を求めて東京に出てきた。昨年12月から都の自立支援を受けながら仕事を探していたが、今年に入り、知人に誘われて日雇いの仕事を始めた。その仕事も5月の連休を境に途切れ、炊き出しの列に並んでいたという。

山友会のスタッフが声をかけたところ、「働きたい」というので生活保護を受けながら仕事を探すことになった。ところが、部屋がひどく散らかっていて自分では片づけができない様子が見られたり、自転車を貸りて外出したところ、どこに置いたかわからなくなり、探すことに没頭するあまり連絡をすることまで気が回らなくなってしまうということがあった。本人と対話を続けていくと「目の前のことにのめり込みすぎると、周りのことが見えなくなる」と打ち明けた。スタッフがボランティア精神科医に相談したところ発達障害の可能性を指摘されたという。

無料診療や生活相談は、長いつき合いの入口

写真:相談室に集う人々。多様な相談に対応する場としてだけではなく、山友会を訪れる人々や路上生活者、山谷地域に住む人々の「居場所」としての機能も果たしている。相談室に集う人々。多様な相談に対応する場としてだけではなく、山友会を訪れる人々や路上生活者、山谷地域に住む人々の「居場所」としての機能も果たしている。

「もちろん、このような生きづらさを抱えた人すべてが『発達障害』を抱えているということを言いたいわけではありません。しかし、民間団体の支援があって、生活保護という制度もあって、自らそれを手放すのは自己責任でしかないというのが世の中の多くの人々の見方だと思う。しかし、なぜ、そうなってしまうのか、ということに私たちは目を向けていかなければならない。『発達障害』は、彼らを理解するキーワードの一つになるのではないかと考えました」と、油井さんは言う。

そこで山友会では、ファイザープログラムの助成を受け、「生活困窮状態にある発達障害者のための支援プログラム」を開発するための調査を行った。

「まず、路上生活者や生活困窮者の支援をしている中間施設のスタッフに、アンケート調査をしました。調査の内容は、発達障害の疑い・傾向がある人にどのような支援を行い、そこにはどういった難しさがあるか、今後どのような支援が望まれるかということについてです。その結果、8割の職員が施設利用者に対して発達障害やその傾向を疑った経験のあることがわかりました。しかし、昨今の発達障害への理解をめぐる社会情勢にも見られるように、その概念の曖昧さや他の精神疾患などとの鑑別の難しさから発達障害かどうかの判断に迷いがあります。また、関係性の構築に時間がかかることや専門支援機関が不足していることから、医療につなげるのが難しいというのが現状のようです」

さらに昨年10月からは定期的な「事例検討会」を開いている。支援やコミュニケーション上の困難や違和感を覚えた事例を精神科医や臨床心理士からの助言をもとに、どのような理解やかかわり方がよいのか、どのような支援展開をしていけばいいのかについて参加者で検討し共有している。

「積み重ねた事例はいずれ体系化し、支援プログラムづくりに役立てたい。支援プログラムを有効なものにするためにも医療機関や就労支援機関、生活支援資源といかに連携して多面的なネットワークを構築できるか、そして、これは発達障害に限ったことではないですが、多様な『生きづらさ』を、当事者と支援者で理解・受容するだけではなく、社会的な理解・受容に波及していくことが今後の課題です」

無料診療所と相談室が入っている山友会の建物の前では、多くの人たちが居場所を求め、長椅子で何をするでもなく思い思いにくつろいでいる。

ジャンさんは、見守りには根気が必要だと話す。

「たぶん、今までに自分のことを考えてくれた人が、ほとんどいなかったのでしょう。最初に抵抗を示す人が多いですね。こちらの心配をよそに行方不明になって、何年か経って身体を壊して帰ってきても、『ジャンさん、ごめんなさいね』って言われると何も言えなくなる。信頼して存在を認めてもらえるまでには、ずいぶん時間がかかります」

無料診療や生活相談は、これから始まる長いつき合いの入口にすぎないのだ。

※ 支援を求めている人のところに支援する方から出向くこと

認定NPO法人 山友会

1984年に無料診療所「山友会クリニック」を中心とした活動を始める。現在は無料診療所「山友会クリニック」・相談室の運営、アウトリーチ活動、炊き出し、生活困窮者の中間施設「山友荘」の運営を行っている。活動は12人のスタッフと医師・看護婦を含むボランティアによって支えられている。
※相談室のボランティアを募集しています。興味のある方は下記までご連絡ください。

〒111-0022 東京都台東区清川2-32-8
TEL : 03-3874-1269
FAX : 03-3874-1332
メール : sanyukai@gol.com
ホームページ : http://www2.gol.com/users/sanyukai/

  • 寄付のお願い
  • 日中の居場所を必要としている人のスペースが確保できないため、建物の拡張を検討しています。ご寄付のご協力をお願いします。

【郵便振替】
東京 00100-2-158990 加入者名:山友会
※ご依頼人のお名前、お電話番号、郵便番号、ご住所をご記入ください。

※名称・団体名はTHE BIG ISSUE掲載当時のものです。

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