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ファイザー株式会社 Working together for a healthier world より健康な世界の実現のために
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2012年度新規助成団体 BIG ISSUE掲載記事

社会問題の原因は孤立。
「お風呂プロジェクト」などで重症心身障害者が地域の人々と交流
-NPO法人 月と風と

社会から孤立しがちな重症心身障害者の地域生活を支え、アートや銭湯体験などユニークな活動で地域とのつながりをつくる「NPO法人 月と風と」。困難かつ深刻な重度障害者支援を、軽やかに、生き生きと取り組む代表の清田仁之さんに話を聞いた。

自分とは違う「生」への驚き。役立った役者の経験

画像:代表 清田仁之さん 代表 清田仁之さん

「高齢化社会だし、最初は食いっぱぐれがないかなぐらいの軽い気持ちでした」

福祉の世界に足を踏み入れた当時を振り返り、代表の清田仁之さんは笑う。もともとは役者志望の劇団員。そろそろ腰を落ち着けようと選んだ仕事が、社会福祉士だった。が、専門学校の実習で訪れた知的障害者の施設で、清田さんはいきなりカルチャーショックを受けた。

「ひとりの男性が、グラウンドで砂を集めては手で掴んでサラサラとやっていたんです。『それ、おもしろいんですか?』と尋ねても、返事はない。朝一番で見かけて、夕方に戻ってみたら、まだその〝砂サラサラ〟をやっていたので、職員さんに聞いたんです。そしたら、『彼は8年間ずっとあれをやっている』と。すごく不思議な気持ちになりましたね。この人は何を楽しみに生きているんだろうって。ああ、こうやって生きている人もいるんだなと思ったのが、福祉に本当に関心をもつきっかけでした」

障害者にかかわる現場では、自分とはまったく異なる「生」を生きる人々が驚くほどたくさんいた。一方、施設スタッフとして働いた時には、閉じた施設の中で毎日決められた生活を送る障害者の人生に割り切れなさを感じた。福祉制度に支えられ、毎日ご飯が食べられれば安泰なのか。人の幸せは、それだけではないんじゃないかという思いが募った。

「象徴的だったのは、同時期に二人の死に遭遇したことでした。一人は施設に28年間いた高齢の方で、もう一人は在宅の車椅子の方。そのお葬式が対照的で、施設の人の参列者は職員16人、かたや在宅の人は福祉関係者や家族をはじめ近所の人たち、コロッケ屋の店主に至るまで150人も来ていて、びっくりしました。在宅の彼はより重い障害をもっていたにもかかわらず、好きなものを食べ、行きたいところに行っていた。結局、周りに誰がいるかで障害者の人生も変わる。自分なら、やっぱり150人のお葬式の方がうれしい。そう思った時に、地域で暮らす障害者を支えていきたいと考えるようになりました」

清田さんは、意外にも役者の経験が福祉の世界で役に立ったと言う。「役者は、役を演じるために自分とは違う立場になって、徐々に自分を役に近づけていく。もし自分が障害者だったらと考えることは、まさに役者のプロセスそのものでした」

アート活動で、〝支援される人〟から〝尊敬の対象〟へ

ご近所の銭湯に総勢40人で!ご近所の銭湯に総勢40人で!

「月と風と」を立ち上げたのは06年。四肢麻痺があり、明確な意思疎通が難しい「重症心身障害者」と呼ばれる人たちへのヘルパー派遣を仲間と引き受けるうちに、口コミで噂が広がり、事業化に至った。今も利用者の7割は、24時間の見守りを必要とする在宅の重症心身障害者だ。

「彼らの多くは、両手両足の麻痺があったり、言語でのコミュニケーションも難しく、また呼吸器系や消化器系も機能しにくいため、喉に開けた穴から痰を吸引したり、お腹の穴からチューブで直接栄養剤を注入したりする、いわゆる医療的ケアが必要なんです。そのため、これまでは命にかかわるリスクが高いということで、ヘルパーの派遣も敬遠されがちで、その結果、彼らは平均寿命23歳という短い命にもかかわらず閉じこもり気味で、家族ともども社会から孤立していました」

「月と風と」はヘルパーの派遣事業を行う一方、団体設立後は障害者を交えた詩や音楽、ダンス、書道などの表現活動を行うイベントを定期的に開催。さまざまな場づくりを通して障害者が地域に出ることで、福祉サービスの枠を超えた人のつながりを創出してきた。

「アートは、どうしてもやりたかった活動の一つ。たとえば、精神障害の人にあなたの人生を書いてくださいと言うと、健常者には書けない素晴らしい詩ができたりする。アートを介すると、障害をもった人たちが〝支援される人〟から〝尊敬の対象〟へと変わる瞬間があって、それがおもしろいんです」

イベントの広報時には、あえて「障害者」の文字は入れない。募集の間口を広げ、格安のカルチャー教室のような形で参加者を募り、「地域の人たちが書道を習いに来てみたら、たまたま横に障害者がいたという出会いが理想」と清田さんは言う。

そうしたイベントの中でも特にユニークなのが、重症心身障害者を交えてみんなで銭湯に行く「お風呂プロジェクト」だ。これは、13年にファイザーの助成を受け、「ヒトリボッチジャナイプロジェクトin劇場型銭湯」として実施。初年度は3回にわたって、当事者と地域の人々が入浴を共にしたという。

「重症心身障害者の方々は、言語コミュニケーションが難しいうえ、筋弛緩剤などの服薬で覚醒時間が限られていたりするので、はた目には何を考え、何を感じているのかを理解するのが難しいんです。だけど、お風呂に入っている時だけは、とてもいい表情をする。そのいい顔を見てもらいながら、地域の人と交流するには銭湯が一番でした。それに、僕らが本拠とする尼崎は兵庫県の銭湯の3分の1が集中する地域という偶然もうまく重なった。障害者と地域の人々をつなげながら、銭湯という地域資源を活かしてコミュニティも活性化していきたい」

銭湯で「若の湯会」、「フロ友」。0を1にするのがNPOの仕事

写真:銭湯前にお芝居「のばす手」。車いすの方と一緒に上演。歌→お芝居→おふろ、健康ランド感覚で銭湯前にお芝居「のばす手」。車いすの方と一緒に上演。歌→お芝居→おふろ、健康ランド感覚で

今年、助成2年目となる「劇場型銭湯」では、入浴機会を増やすため、さまざまな仕かけをつくっていると清田さん。長時間の外出が難しい重症心身障害者に配慮して、少人数で近くの銭湯まで出張する「おふ会」、地域の若者と入浴する「若の湯会」、さらには重症心身障害者の同級生などと連絡をとって入浴する「お風呂同窓会」などを企画。入浴体験をほぼ毎月実施しているほか、参加者や銭湯で偶然出会った人にはオリジナルの手ぬぐいを渡して「フロ友」になり、次回の入浴半額券「ふろチケ」も渡すなどして、より継続的な関係づくりにも力を注いでいる。

「僕は、障害者の問題だけでなく、ほとんどの社会問題は孤立が原因で起きているのはないかと思っているんです。だから、『重症心身障害者って、大変そうですね』ではなく、一緒にアートをしたり、入浴することで、障害者と健常者の関係を少しでも縮めていきたいし、家族の方にも福祉関係者以外の知り合いができてよかったと喜んでもらえると、僕らのテンションも上がる。そうした関係をもっと増やしていくには、劇場型銭湯のような間口の広さや楽しさが必要だと思っています」

清田さんは、障害の重さゆえに外出もままならず、地域の人たちの目にもふれにくい重症障害者という存在をどんどん可視化していきたいと話す。

「NPOというのは、0を1にする仕事。普段のヘルパー業で障害者の生活を支えながら、一人の思いや願いをくみとり、それを少しでも実現できるように動き、プロデュースしていく。その小さな願いの中に大事なニーズが隠れていて、1にできれば、あとは社会が10倍にも100倍にもしてくれる。だから、僕らは障害者一人ひとりの何気ない言葉や表情を見過ごしてはいけないなと思っています」

NPO法人 月と風と

06年11月に設立。医療的ケアを必要とする在宅重症心身障害者へのヘルパー派遣事業を行うとともに、アート・地域イベント・お風呂・ヘルパー育成の4プロジェクトを実施。障害者と健常者が、共にアート活動や銭湯入浴体験を行う機会をつくることで、当事者と地域の人たちつながりを創出している。

TEL/FAX : 06-6493-6495
ホームページ : http://tsukikaze.mond.jp/

※名称・団体名はTHE BIG ISSUE掲載当時のものです。

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