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日本で新薬開発はなぜ進まないか
−治験プロセス四分野の問題点を切る |

黒川 清
東海大学医学部長
東京大学名誉教授
1936年(昭和11年)、東京生まれ。東京大学医学部卒、東京大学大学院医学研究科修了。
UCLA校医学部内科教授、ワッズワース・ベテラン・アドミニストレーション・メディカルセンター内科腎臓科長、東京大学医学部附属病院分院助教授を経て、1989年より東京大学医学部第一内科教授、
96年より東海大学医学部教授、現在に至る。
公衆衛生審議会や厚生科学審議会などの各委員会委員長を歴任。
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目前に迫っている少子型の超高齢社会。保健医療は、人々の暮らしになくてはならないガス・水道・電気などと同じような、社会のライフラインの一つになっているのではないでしょうか。
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行政は国際批判を避ける方策を

医薬品開発の国際化の動きの中で、先進国では国際的スタンダードでやっていこうという「国際的ハーモナイゼーション(ICH)」の取りきめが1989年に作られた。いわば治験における黒船である。さらに97年には「新GCP(医薬品の臨床試験の実施基準)」によるガイドラインが定められた。
ところがこの新しいICH−GCPが導入されて以来、日本では治験の数と進行速度が著しく減少し、新薬開発に支障が起きかねない状況になっている現状がある。
この問題の要因はいったいどこにあるのだろうか。治験システムのプロセスには(1)行政(承認審査機関)(2)製薬企業(開発者・治験依頼者)(3)医師・医療機関(治験実施者)(4)患者、国民(被験者)の4つの当事者が存在する。これらの各々に、いくつかの問題点がある。
まず第一に行政当局における問題である。ICH−GCPでは、よい薬を早く使ってもらうために、外国のデータをそのまま使うことができるようになった。そのために日本で治験が進捗しないとなると、治験は主に外国で実施され、長期的には国内経済にマイナスとなる。さらに画期的新薬の治験は外国で行われ、日本人特有の問題をクリアする部分(Bridging Study)のみ国内で行なう状況になる。そうなると「リスクは外国任せ、日本はいいとこ取り」という国際的批判が出かねない。こうした批判を行政は責任をもって回避しなければならない。そして国内産業を活性化し、育成するためにも、治験が行いやすいようブレーキとなっている規制をできるだけ撤廃していく責任がある。行政による、治験コスト等の細部にわたる指示などは全く不要である。あとは産・学(診)協同で競争原理のもとでよりよい環境づくりをしながら進められるようにすればよい。また広報活動も重要で、日本人が世界のパートナーとして応分の責任をとれるような方向づけを行なうべきである。
治験への投資を惜しむべきではない

第二に製薬企業の問題である。真に良い薬を作ればグローバルに売れ、年間売り上げが何百億円にものぼる。したがって開発が一日遅れれば億単位の損失ともなる。だからメーカーは早くしかもハイクオリティの治験をするための投資をすべきであろう。ところがサラリーマン社会の日本の企業ではとかくそうした長期展望が立てにくい。もはや行政頼みはやめて患者と国民にポジティブな印象を与える新薬開発・治験のシステムを創造することである。
医療保険制度上の問題ももちろんある。医薬品が申請主義に偏っているために、承認申請した適応症にしか保険が適用されない。極めて非論理、非科学的、非現実的システムで医療現場でも困惑している。ここにも行政の問題はあるが、メーカーとしても収益追求だけでなく社会的責任感に基づくさらなる企業倫理の確立が強く求められる。そして今こそ横並び意識は捨てて、イノヴェーティブな発想とアプローチが欲しいものである。
画期的新薬開発の支障となっている第三の問題点は医師、医療機関にある。まず最大の問題は治験実施医療機関の受け入れ体制が充実していないこと。新ガイドラインに関する知識不足、治験にかかる医師の質にも問題がある。一方、日本では優れた治験を行なった実績が担当医師のキャリアや十分な対価として正当に評価されず、インセンティブがない問題もある。これは必要以上の規制と医療機関内部の問題に由来する。
その意味でICHはわが国臨床医学界の内部システムへの挑戦と受け止めるべきであろう。
書面によるインフォームド・コンセント、同意書への捺印その他治験の実施までには、実は膨大な時間が要る。そこでクリニカル・リサーチコーディネーター(CRC)など治験支援スタッフが必要であるが、その待遇と質の確保も重要だ。
こうしたインフラ整備により、治験が医療機関の採算部門となれば、メーカーに対して自己アピールするようになる。そこには他の医療機関との競争原理が働き、質と効率は高まる。
治験に協力するメリットの充実を

第四の問題は患者、国民の理解を得る方策である。特に被験者のメリットについてであるが、日本では事前の検査や薬剤にかかる費用は別として、治験を通じての治療費用は保険診療の一部であり自己負担もある。しかしこれはメーカーが払うべきであろう。経済面での全面援助にはデメリットもあり慎重論があるが、国民皆保険のもとでは治験に協力するインセンティブが働きにくい。健康・医療面の継続的サポートなどメリットはいくつかあるが、ともあれ四分野すべてにメリットの多い状況を作り出さないと治験は進まないであろう。
新しい治験のガイドラインの基本要件は倫理性と科学性の二点。細則の厳格な運用を求めているわけではない。キーワードは「患者志向、市場志向のアプローチ」そして「科学的、革新的アプローチ」だと思っている。
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■ 行政・企業・国民、それぞれの立場で努力が必要とされている



資料:「医薬品安全性確保対策検討会 最終報告書について[概要]」
(厚生省薬務局・全国厚生関係部局会議資料」)より抜粋

■ 人権保護とデータの信頼性確保により、国際的水準をめざす

新GCPの主な変更点



資料:「全国厚生関係部局会議資料」(厚生省医薬安全局)より
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