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ファイザー株式会社 Working together for a healthier world より健康な世界の実現のために
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ファイザープログラム 助成団体 THE BIG ISSUE 掲載記事

農業、林業、漁業で働く。
重複障害と薬物依存症を同時にこえる回復ストーリーに挑戦
-NPO法人 三重ダルク

昨今、薬物依存症者の中に知的障害や発達障害などの重複障害のある人が多いことが明らかになってきた。これらの依存症者の中には、従来の回復支援にうまく乗れず、たとえ薬をやめても社会参加が極めて難しい人もいるという。「重複障害を持つ薬物依存症者」という新たな課題に挑戦するNPO法人「三重ダルク」施設長の市川岳仁さん、スタッフの中村恵大さんに話を聞いた。

本当に薬物の問題か?ミーティングが機能しない人たちの発見

画像:施設長 市川 岳仁さん 施設長 市川 岳仁さん

ダルクは全国50ヵ所に約70の施設をもつ民間の薬物依存回復施設だが、その特徴は当事者による自助グループスタイルの活動だ。薬物依存からの回復を目指す人たちは、ここで毎日ミーティング(グループセラピー)を重ね、お互いの体験談を共有することで、薬を使わないクリーンな生き方を見つけていく。

だが、そうした回復プログラムだけではうまく社会参加につながらない人は確実にいる。自らも薬物依存の経験があり、「三重ダルク」施設長を務める市川岳仁さんは、そのことがずっと気になっていたという。

「僕自身、薬がぜんぜんやめられない人で、全国のダルクを転々としました。薬をやめると、調子が悪くなり、依存症の他にも何か問題があるのは明らかだった。だけど、回復してスタッフとして依存症者にかかわるようになった時、彼らとの日々の中で『これは本当に薬物の問題なんだろうか?』と思うことがよくあったんです」

その思いが決定的となったのは、ある依存症者との出会いだった。その人は人とのやりとりの中で、単語の意味はわかっても、話全体の意味やニュアンスがうまく理解できなかった。市川さんは家族と三者懇談の機会をもち、専門家の検査を提案。結果は軽度の知的障害という判定だった。

「やっぱりそうか、と思いました。ダルクの回復プログラムは、ミーティングでたくさんの回復者と出会って話を聞くことで、自分のこともたくさん振り返れて、その中で解決法も見つかるというシンプルな構造なのですが、逆に言うと、その理解に関しては本人の能力次第というところがある。たとえば、その人の場合は、過去を振り返ろうにも出来事が論理的に記憶されていないからうまく思い出せないわけで、同じようにミーティングが機能しにくい人が実はかなりたくさんいるということではないでしょうか」

重複障害のある人の問題は、リハビリ過程だけではない。薬をやめて社会に戻っても、人間関係でトラブルが起こりやすかったりする。それが障害によるものだという認識が本人にもなければ周囲にもない中で、「なんだか、うまくいかない」という場面にたびたび直面して、再び薬物に戻ってしまうこともある。

「そうやって再発を繰り返す人がたくさんいるのに、それを薬物依存の問題とだけとらえて、何回もプログラムにチャレンジさせ、毎回、彼らの回復ストーリーを分断してしまうのは問題だと思いました」

担い手不足の地場産業で就労。“やっていける”感覚が回復を促す

写真:スタッフ 中村 恵大さんスタッフ 中村 恵大さん

こうした中で、三重ダルクが取り組んだのは、個人の自立に一定の困難を抱える人に対応した新しい回復ストーリーの構築だった。ミーティングでは、ホワイトボードを使ったり、場合によってはロールプレイやサイコドラマの手法を取り入れ、それまで言語のみだったやりとりを可視化し、心理教育やSST(社会技能訓練)などの福祉的支援も導入した。そして、「一つの仕事でフルタイム働けることが回復である」という無意識に刷り込まれた回復イメージを積極的に壊していった。

「重複障害のあるメンバーに将来の希望を聞くと、返ってくるのはやっぱり、仕事して、部屋を借りて、結婚して・・・というようなことなんです。どこかで聞いた“一人前”のイメージにとらわれている。だけど、現実には、週5日、朝から晩まで働く就労形態だと難しいので、ちょっと工夫しませんかと提案した。都会よりも高齢・過疎化が進む田舎の方が働くチャンスは多いかもしれないし、いくつかの仕事を少しずつ引き受ければ、トータルで生活できるようになるかもしれないと。それで始めたのが、東紀州プロジェクトでした」

東紀州プロジェクトは、ふるさと雇用再生特別交付金を活用した三重県の補助金事業で、作業の担い手を求める果樹園に重複障害を持つメンバーを派遣し、みかん栽培の就労を実現。2年目には、マガキ生産者とも契約を結び、繁忙期のカキの殻を洗浄する作業に従事した。さらに、3年目には紀州備長炭を生産する製炭業でも働き、農業、漁業、林業の3分野での就労を経験した。いずれの地場産業も担い手不足から将来の存続が危ぶまれるだけに、三重ダルクとの協同は新たなモデルとなる一方、2010年にはファイザープログラムの助成を受けて、重複障害のある薬物依存症者の有効な社会参加事例として研究報告をまとめた。

プロジェクトで現場支援を担当したスタッフの中村恵大さんは、「最初は慣れない体力仕事に脱落する人もいましたが、彼らは普通なら飽きるような単純作業でも得意にこなし、休憩時間でも熱心に働いたりした。よく働くので、最低賃金から始めた時給も100円アップしてもらえた」と話す。

また、一般的に薬物依存の回復初期段階では“働かない”ことも必要とされるが、むしろ地域で働く方が回復のプラスになるケースもあるのではないか、と市川さんは言う。

「稼いだお金が薬物使用のリスクを高めるという考え方から、自立段階になるまで仕事は控えてもらうことも多いのですが、地域生活の中で“やっていける”という感覚が一つひとつ積み上がっていくことで、薬を使う必要性を減らせるケースもあると思うんです」

優しい味の弁当屋。雇われる発想を超え、事業化目指す

写真:カキの殻を洗浄カキの殻を洗浄 写真:みかん栽培
みかん栽培 写真:お弁当屋での作業お弁当屋での作業

薬物依存症者の回復を目指すダルク施設では、地域と連携した取り組みは極めて異例だ。そのため、今や三重ダルクには、全国のダルクから重複障害のある人がやってくる。「この取り組みで最も意味があったのは、重複障害という言葉が薬物依存にかかわる人の間で当たり前に使われるようになったこと」と市川さん。

ただ、障害が明らかであるなら、障害者施設につなげる方法も考えられたはずだが、なぜ「地域」だったのか。市川さんは、こう説明する。

「薬物依存になる人の中には、すでに中学や高校ぐらいの段階で障害や貧困などのさまざまな生きづらさを抱えている人も多い。勉強が苦手だったり、社会に出てからも人と同じことができず怒られたり、バカにされたり・・・居場所を失い、結局行きついた先が薬物ということですよね。でも、ダルクはスタッフを含め全員が当事者だから、安心して薬をやめることができます。それに回復すれば、ここでは成功した人として認められる。薬物依存症になったことで、それまでのさまざまな問題はいったん保留にして、みんなが平等な回復のチャンスを得ることができるんです。それを、今度は『あなたは障害者だから』と言って、他の施設に連れて行きたくなかった。それよりも、今まで通り同じ依存の仲間として、できる能力を活かして、地域のコミュニティの中で対等に働くということを目指したかった」

現在、三重ダルクは、再びファイザープログラムの助成を活用して、SSTやアートセラピーなどを取り入れた言語に頼らないミーティング手法の開発に取り組んでいる。また、同時に障害者自立支援法に基づくB型事業所を運営し、弁当や総菜の製造販売事業にもチャレンジしている。

「安定的な就労を考えた時、どこかに雇われるという発想も超えていきたいなと思って、重複障害のあるメンバーの一人に30品目のおかずを試しに作ってもらったら、これがすごく優しい味で・・・。将来は、生活保護世帯や単身の高齢者、障害のある人などに配達して食べてもらえるような弁当屋ができればいいなと思っています」

NPO法人 三重ダルク

薬物依存症からの回復支援施設「ダルク」の17番目の施設として1999年に設立。薬物依存症からの回復と自立に向けた支援を行う一方、重複障害をもつ依存症者に対応したプログラムを実施。精神保健福祉士や介護福祉士などの専門資格による知識も導入して、地域に密着した取り組みなど、他のダルクにはない特徴的な取り組みを行っている。

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※名称・団体名はTHE BIG ISSUE掲載当時のものです。

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