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ファイザー株式会社 Working together for a healthier world より健康な世界の実現のために
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ファイザープログラム 助成団体 THE BIG ISSUE 掲載記事

インクルーシブデザイン。
デザイン過程に障害者も参加 さまざまな人をつなぐ対話で、違いを認め合う社会をめざす
-財団法人 たんぽぽの家

近年、「障害者アート」がかつてない盛り上がりを見せている。その草分け的存在の一つである「財団法人たんぽぽの家」事務局長の森下静香さんとスタッフの岡部太郎さんに、アートによる仕事づくりや「インクルーシブデザイン」など先進的取り組みについて聞いた。

アートの力を活かして社会変革をめざすエイブルアート

画像:事務局長 森下 静香さん 事務局長 森下 静香さん

「障害者アート」と聞くと、私たちはどうしても福祉的なものを思い浮かべがちだ。アートといっても、「作業所のようなところで、障害のある人ががんばって絵を描いているのだろう」といった具合に。

だが、「たんぽぽの家」を訪れると、そのステレオタイプのイメージは即座にくつがえる。まず目を見張るのが、美術館のようにスタイリッシュな空間だ。白を基調に窓ガラスを多用した創造性あふれる建物は「アートセンターHANA」と呼ばれ、04年に日本初の障害者のアートセンターとしてオープン。ここに障害のある人たち約50人が通い、絵画から立体造形、手織り、パフォーマンスに至るまでさまざまな表現活動を行っているという。

「私たちは、『エイブル・アート』(可能性の芸術)と呼んでいるのですが、単に障害のある人のアート作品ではなく、そのエネルギーに満ちた表現活動を、人間性を回復させる新しいアートとして捉え直し、そこにさまざまな可能性を見いだそうとしています。アートの力を活かしながら、一人ひとりの個性を尊重した社会づくりにつなげていくことが私たちの最大のミッションです」と事務局長の森下静香さん。

活動のはじまりは、約40年前。障害のある子どもをもつ母親らが、養護学校を卒業した後もわが子が地元で生きがいをもって暮らせる場をつくりたいと運動を始めたのがきっかけだ。そして、自立の家としての「たんぽぽの家」づくりを進める過程で着目したのが、音楽などの文化の力だったという。

「たんぽぽの家の一つの特徴は、発足当初から当事者だけでなく、地域のさまざまな市民らがかかわったこと。そのために、障害者支援の制度に偏ることなく、自分たちと違う立場の人たちにも共感してもらう幅の広い運動になりました。施設づくりの一方で、今年37回目を迎えた、障害のある人の詩にメロディーをつけて舞台で発表する『わたぼうし音楽祭』のような文化的な活動を行ってきました」

アートを仕事に。作品をプロデュースして社会に発信

写真:スタッフ 岡部 太郎さんスタッフ 岡部 太郎さん

現在、たんぽぽの家は、運動を支えるボランティア団体「奈良たんぽぽの会」、障害のある人や高齢者に福祉サービスを提供する「社会福祉法人わたぼうしの会」、そしてアートやケアをテーマに多彩なプロジェクトを行う「財団法人たんぽぽの家」という3つの組織で運営されている。近年、特に力を入れているのがアートを仕事にする取り組みだ。

その環境をつくるために、2007年に、東京、福岡のNPOと共同で中間支援組織「エイブルアート・カンパニー」を立ち上げた。全国から障害のある人のアート作品(絵画・イラスト・書など)を募集し、審査のもとカンパニーアーティストとして登録。これらの作品を企業などが広告や商品デザインに使用するというものだ。著作権管理の窓口として、作品をデジタルデータでストック。現在、73名のアーティストの作品約6800点が登録されている。雑誌や広報誌の表紙、バッグやハンカチ、傘、下着、靴下などさまざまな商品に活用され、百貨店でのプロモーションも行われている。

スタッフの岡部太郎さんは、「アーティストと作品を使いたい人をつなぐ仕組みです。簡単にいうと、才能あるアーティストや表現を社会にアウトプットする役割ですね」と笑う。

「私たちが特にこだわっているのは年1回のアーティストの選考で、審査を百貨店のバイヤーや企業、デザイナー、印刷会社などに依頼して、実際に使いたい作品かどうかという視点で選んでもらっている」という。

また、05年からは、ヨーロッパ発のソーシャルインクルージョン(社会的包摂)という考え方をベースにした「インクルーシブデザイン」(※1)を広げていく実践的な事業にも取り組んでいる。インクルーシブデザインとは、これまでデザインのメインターゲットから除外されてきた障害のある人や高齢者らに積極的にデザインプロセスに参加してもらい、一緒に創造的に問題を解決していく手法で、森下さんは個人のニーズからデザインを考えるプロセスに大きな可能性を感じているという。

「たとえば、障害のある人たちがワークショップというかたちで企業の製品開発に参加し、実際に商品化されたものに待合室向けのロビーチェアがあります。これは、チェアの端に肘と背のないラウンドシートがあることで、杖をついた人が座りやすいようにと着想されました。結果的にそれが、高齢者や子ども連れのお母さんにも座りやすいものになっています。障害のある人たちはエクストリーム(極端)なニーズをもつユーザーであると見ることもあるのですが、そのようなユーザーが使いやすいものは、違う立場の人にも使いやすいのではないかと多様なシナリオを描き、課題のある人々をどんどんインクルード(包摂)していくのが『インクルーシブデザイン』なんです」

ケアの現場を変える「尊厳のためのデザイン」

写真:施設職員自身による敷地の使い方の提案作業(たんぽぽの家)施設職員自身による敷地の使い方の提案作業(たんぽぽの家) 写真:リサーチのふりかえり(医療機関)リサーチのふりかえり(医療機関) 写真:プロダクトデザイナー中坊壮介氏によるナースカートプロダクトデザイナー中坊壮介氏によるナースカート

こうした「インクルーシブデザイン」の手法を取り入れ、昨年にはファイザーの助成を受けて、医療・福祉施設を対象とした「尊厳のためのデザインリサーチプロジェクト」(※2)を実施した。「尊厳のためのデザイン」とは何か。森下さんは、こう説明する。

「治療や介護が優先される医療・福祉の施設では、機能性を重視したデザインが求められるので、現場にいる患者や利用者、そこで働く人たち個人の生活的豊かさが考慮されにくい現状があります。その中で、生活者としての尊厳や他者との関係性の構築を視点にしたデザインを取り入れる試みで、情報学や社会福祉学、デザイン分野などの研究者、デザイナー、学生といった学際的なメンバーにより調査とデザインの実践が行われました」

対象となったのは医療機関と高齢者福祉施設、障害者福祉施設であるたんぽぽの家の3施設。いずれもプライバシー保護が重視される現場だけに、リサーチにあたっては現場で働く人自身に調べてもらうことをポイントに、サングラス型のビデオカメラを使用するなどユニークな調査方法も考案された。その結果、看護師が使用するナースカート(写真)や共有スペースのデザイン提案などが行われたほか、たんぽぽの家では建物敷地内においていかに私的空間をつくるかが検討された。

「ケアの現場では、たとえばスタッフがバーンアウトしないためにも休憩時間のリフレッシュが重要ですが、実際には時間通り休めず、オンとオフの切り替えが難しい。ところが、調査の結果、一方では、みんなが自由な発想で建物や敷地スペースを使っていることがわかった。そこで、建築家の家成俊勝さんのアイデアで、利用者である私たち自身が一人ひとりのニーズを可視化しながら、建物の使い方をトランスユース(改変・更新)していくことができる施設模型を製作していただいた。この提案は、ケアの現場が抱える普遍的な課題を解決していける可能性のあるもので、やはりデザインの役割は大きいと感じましたね」

このような取り組みを通じて、森下さんは改めて分野を超えた協働の必要性を感じているという。

「障害のある人たちが社会の中で豊かに生きていけるようにするにはどうしたらいいのかと考えた時、政府が示す制度だけでは不十分だし、やっ ぱり福祉分野の人間だけで考えていても限界があると思うんですね。デザインや流通などの分野にはその道のプロがいるわけで、そういう人たちといかに連携していくのか。その対話力が問われていると思います。そうして初めて福祉が福祉だけにとどまらない、本当の意味での社会福祉になる。まだまだ取り組むことはたくさんあると思っています」

  1. ※1 「インクルーシブデザイン」と「ユニバーサルデザイン」は同じ理想を反映しているが、「インクルーシブデザイン」は主にヨーロッパ、「ユニバーサルデザイン」は米国で生まれ日本でも使われてきた。
  2. ※2 監修:水野大二郎(慶應義塾大学講師)

財団法人 たんぽぽの家

障害のある人が養護学校を卒業したあとも地域で生きがいをもって生活できる自立の家をつくるため、1976年に設立。「たんぽぽの家」完成後、1987年に「社会福祉法人わたぼうしの会」の設立認可を受けたのを機に、施設運営をわたぼうしの会に移行した。現在「アート」と「ケア」の視点から多彩なアートプロジェクトを行う活動を展開。国内外の団体とネットワーク型の文化運動を展開し、より公共性の高い仕事に取り組んでいる。

※ 「尊厳のためのデザインリサーチプロジェクト」の報告書をご希望の方はお問い合わせください。

〒630-8044 奈良県奈良市六条西3-25-4
TEL : 0742-43-7055
FAX : 0742-49-5501
メール : tanpopo@popo.or.jp
ホームページ : http://popo.or.jp/

※名称・団体名はTHE BIG ISSUE掲載当時のものです。

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