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ファイザー株式会社 Working together for a healthier world より健康な世界の実現のために
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2011年度助成団体 BIG ISSUE掲載記事

表現することが生きる力になる。
釜ヶ崎で、詩、ダンス、ドラマの「表現のワークショップ」
-NPO法人 こえとことばとこころの部屋

「無縁社会」といわれる現代、野宿者は路上から脱出しても、その多くが単身高齢者となり、人とのつながりが希薄な孤立化の問題に直面している。日雇い労働者の街「釜ヶ崎」で、アートを中心とした居場所づくりや生きがいづくりに取り組む「NPO法人 こえとことばとこころの部屋(ココルーム)」代表の上田假奈代さん、スタッフの植田裕子さんに話を聞いた。

「表現」とは、根本的な “生”にかかわるもの

画像:代表 上田 假奈代さん 代表 上田 假奈代さん

釜ヶ崎のはずれにある商店街「動物園前一番街」に足を踏み入れると、そこはもう“昭和”のムード漂う世界。昔ながらの大衆食堂や洋品店などが軒を連ね、通りではランニングシャツ姿のおじさんが悠々と自転車ですれ違う。そんなちょっとディープな商店街の一角に、ココルームのカフェはある。

小さな店内は、カウンター席と奥には4畳半の畳席。ちょうどお昼時とあって、スタッフらと畳の卓袱台を囲んで昼食をいただくと、まるで大家族の食事風景さながら。時には、常連のおっちゃんたちも食をともにするという。

「釜ヶ崎のおっちゃんたちは孤食の人が多いから、誘っても最初は恥ずかしがる。でも、そのうち食卓に座るようになる人もいて、『久しぶりに人とご飯を食べた』と言って泣き出した人もいましたね」と上田さん。

ココルームは、アートと社会のかかわりをテーマに、表現活動を介してさまざまな人々が立場を越えてつながることで、社会や地域の問題解決に向けた取り組みを行ってきた。ホームレス問題はもとより、障害者やセクシュアルマイノリティ、ひきこもり問題など、これまでに開催したイベントやワークショップは数しれない。それらの活動の根底にあるのが、「表現とは人の最も根源的な“生”にかかわるもの」という思いだ。

「何も美術館に飾られた絵画だけがアートではなく、一人ひとりの言葉や会話、生活そのものがその人の表現であり、互いにかかわり合い、与え合う関係こそが人生を豊かにするアートだと思うんですね。立派なアーティストも、ホームレスも、表現の舞台に立てば、誰もがひとり。その人に代わりはいない。その平等さにおいて、私たちはあらゆる人とかかわろうとしてきました」

ホームレス詩人、紙芝居劇グループの公演。 表現が生きる理由に

スタッフ 植田裕子さんスタッフ 植田裕子さん

ココルームの設立は、2003年。活動のはじまりは、詩人でもある上田さんのある体験がきっかけだ。母親のもとで3歳から詩作を始め、コピーライターや調理師として働くかたわら、詩の朗読を社会化する活動で脚光を浴びていた上田さんに、ある時、一人の大学生が「詩を仕事にしたいんです」と相談してきた。「正直、無理でしょうと思ったのね。だって、そんなことができるのは谷川俊太郎さんだけじゃない?」

その彼が1週間後に飛び降り自殺したと知ったのは、少し経ってからのことだ。あの時、「大変だけど、がんばりや」の一言がなぜ言えなかったのか。そのことが悔やまれた。

「もうそれから、もんどり打って考えたんです。詩とは何か、仕事とは何かって。誰にでも人生をあきらめたくなる時があるけど、そんな時にたった一行の言葉が胸に沁みて、心が落ち着き、励まされることがある。詩というのは、人が命を感じられるような言葉や態度を差し出していく仕事ではないかと。だとすれば、他の仕事に費やしている1日8時間を詩の仕事に注ぎ込みたいと思った」

詩でご飯を食べると宣言して、約1年後に立ち上げたのがココルームだった。30代に差しかかり、疲弊していくアート仲間たちの仕事場をつくりたい一心だったが、深夜までがむしゃらに働く中で、はたとホームレスの存在に気がついた。

ココルームが活動を始めた新世界は、釜ヶ崎の隣町。日常的な光景の中に、ホームレスの姿があった。雨降る深夜に段ボールを積む男性、コンビニ前の地べたで「情けない!」と声を上げながら弁当をかき込む労働者、路上でハーモニカを吹く男性もいた。「一所懸命働いているけど、この人たちのお腹はふくれないんだな」。そう思うと、高度成長を労働者として支えながら、行き場を失い、この街に流れ着いた何千何万の人々の声にならない声が、釜ヶ崎の風の中に聞こえるような気がした。

「私たちはその声を代弁するのではなく、彼ら自身が表現していけたらいいと思ったんですね。ちょうどその頃、『ビッグイシュー日本版』が創刊。ビッグイシューの販売者に舞台に立ってもらったことも、その後のホームレス詩人や紙芝居劇グループ『むすび』などの公演につながっていった。元ピアニストのホームレスの方に演奏を依頼した時には、『その日がくるまで、生きる理由ができました』と言われ、表現することが生きる理由になることを教えてもらいました」

高齢者の孤立化防ぐ、おしゃべり相談、健康相談、表現活動

写真:表現のワークショップ表現のワークショップ 写真:健康相談健康相談 写真:釜ヶ崎芸術大学釜ヶ崎芸術大学

現在、ココルームは商店街のカフェと交流の場である「カマン!メディアセンター」の2拠点をベースに活動。11年からは拠点を飛び出し、釜ヶ崎の中心にある施設で、詩やダンス、ドラマといった「表現のワークショップ」を行っている。あえて街中に出て行ったのは、最近の釜ヶ崎の変化が理由だったとスタッフの植田裕子さんは言う。

「ココルームは釜ヶ崎のはずれにあるのですが、ある時から訪れる人がめっきり減って、その背景に高齢化があることに気づいた。よく顔を見せてくれていた人も、ココルームまでの数百メートル歩くのがしんどくなっていました」

この「表現のワークショップ」は、元野宿者の高齢化による孤立を防ぐ目的で、同年にファイザーの助成を受けて企画され、講師の話を聞いた後に参加者で生活相談のおしゃべりをする「えんがわおしゃべり相談会」、商店街の中で血圧測定と口腔ケアを行う「えんがわ健康相談会」を合わせた3プログラムの事業の一つとして実施された。

「おしゃべり相談と健康相談はすでに実績がありましたが、釜ヶ崎の街の中での表現活動はかなりの冒険でした。会場の横で野宿している人がいる中で、アートよりも先にやることがあるだろうと言われかねないし、いろいろとトラブルがありながらも、それも含めて表現のもつ可能性を感じることができた」という。

また、この経験は美術家の森村泰昌さんや哲学者、天文学者ら多彩な講師を招いて、42コマの授業を開いた「釜ヶ崎芸術大学」(昨年11月~今年2月)の大きなヒントともなった。「ワークショップの月1回というペースは、不安定な生活をしている方にとってはどうなるかわからない遠い未来に感じられるらしく、もっと日常の生活リズムに合わせた短いスパンで表現の機会をつくりたいという思いが釜ヶ崎芸術大学開校につながりました」

13年には、再びファイザーの助成を受けて、「生活相談」「健康相談」「表現活動」の事業を実施。無縁社会といわれる現代において、特に釜ヶ崎のような地域では3つのプログラムを継続することが何より重要だと考えている。

代表の上田さんは、声なき声に耳を傾け、それに応答しようとしてきたことがココルームの今につながってきたと話す。

「私は、一つひとつの出会いの中で、何か大切な話を聞いてしまった、どうしたらいいの?と思いながら、それを受け止め、応答しようと思いながら仕事をしてきました。結局、社会が大きくガラっと変わることなんてない。だからこそ、このどうしようもない日常に抗いながらも、お互いにかかわり合い、小さな出会いや気持ちの揺れをしっかり見つめながら少しずつ変わっていくしかない。何かを表現するということは、自分で考え、選択する人生そのもので、自分の中の他者を動かすことですから、それが誰かにつながっていく可能性になり、生きる力になると思っています」

NPO法人 こえとことばとこころの部屋(ココルーム)

03年に、大阪市の新しい芸術拠点づくり「新世界アーツパーク事業」への参画を機に設立。04年にNPO法人となり、08年に拠点を釜ヶ崎に移転。釜ヶ崎に暮らす方の表現の場づくりをはじめとし、アートを中心とした多彩なイベント・ワークショップを手がけている。

ホームページ : http://www.cocoroom.org/

※名称・団体名はTHE BIG ISSUE掲載当時のものです。

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