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2012年度助成団体 BIG ISSUE掲載記事

「臨床美術」。
精神疾患の予防と回復に創作で自己肯定感を高め、信頼感のある人間関係を築く
-NPO法人 沖縄県福祉ネットワーク協会

精神疾患者が多いといわれる沖縄県で、「臨床美術」と呼ばれるアートプログラムを活用したメンタルヘルスケアを実践する「NPO法人 沖縄県福祉ネットワーク協会」。理事長の赤嶺徳仁さんと副理事長の祖根和佳子さんに、その先進的な取り組みを聞いた。

「なんくるないさ」ではすまない。全国ワースト1が並ぶ沖縄

画像:理事長 赤嶺 徳仁さん 理事長 赤嶺 徳仁さん

青い空に青い海。ゆっくり流れる時間。そして、優しく大らかな県民性……。沖縄というと、多くの人は日常の喧騒を忘れさせてくれる「癒やし」のイメージを思い浮かべる。だが、長年、精神保健福祉の現場に携わってきた赤嶺徳仁さんは、そんな癒やしのイメージの裏に隠れたもう一つの沖縄を語る。

「ご存じかもしれませんが、沖縄は完全失業率が47都道府県中1位で、最低賃金も最も低く、企業の廃業率も全国一。家族関係でいえば、離婚率がダントツの1位で、DVの保護命令件数および違反率ともに1位、子どもに至っては学力調査が万年最下位で、給食費の未納率1位、子どもが夕食を一人で食べる割合も1位と、全国ワースト1をあげればキリがありません。つまり、社会が壊れているわけで、県外の人が抱く沖縄のよいイメージは観光用につくられたものに過ぎない。よく『なんくるないさ(なんとかなるさ)』という方言が沖縄の代名詞のように使われますが、僕らからすれば、なんとかぜんぜんなっていない、もう末期だよというのが沖縄の現実です」

専門家の間では精神疾患者の多さもよく知られており、沖縄の人口当たりの精神障害者手帳交付率は全国一。要因は社会的状況のほかに、本土復帰特別措置法に伴う精神障害の医療費公費負担(自己負担がゼロ)の影響、さらには戦中の沖縄戦のトラウマが世代間連鎖しているとの報告もあるという。

「僕が知るかぎり、施設に来る精神障害者は40代以上の中高年層が多く、典型的なパターンとしては学生時代に不登校やひきこもりを経験して、社会に出ても周囲とうまくいかず職を転々とし、20代半ば頃から長期にひきこもり、問題行動を起こして措置入院となる。一度入院すると、なかなか出られない社会的入院の状況もあって、長ければ10年以上もそのままという人が県内にはたくさんいます」

「ただ、そうした人たちも家庭環境など大きな問題を抱えていた学生時代の若い頃に、適切な支援ができる人に出会えていれば、大人になって何年も入院しなくて済んだのではないかと思うんです。今はあらゆる疾病で予防の大切さが言われますが、精神疾患でも予防ができないのか。そう思っている時に出会った一つの手法が、臨床美術でした」

重要な創作プロセス。
絵などを楽しみながら作り、生きる意欲引き出す

副理事長 祖根 和佳子さん副理事長 祖根 和佳子さん ワークショップで作品制作中の子どもたちワークショップで作品制作中の子どもたち

NPO法人沖縄県福祉ネットワーク協会は、障害の種別を超えた幅広いメンタルヘルスケアを行う組織として09年に設立。その当初から、精神疾患の予防と回復のための一手段として取り入れてきたのが「臨床美術」だ。

臨床美術とは、もともと認知症の症状改善を目的に、美術家や脳外科医らの専門家チームによって開発された日本発祥のアートプログラム。専門的な訓練を受けた臨床美術士のもと、絵やオブジェなどの作品を楽しみながら作ることで脳を活性化させ、感性の目覚めにより心が解放され、さらには生きる意欲や潜在能力も引き出す効果があるといわれる。

臨床美術士の資格を持つ祖根和佳子さんは、一般の美術との違いをこう説明する。

「たとえば、普通にリンゴを描いてくださいと言うと、たいていは赤くて丸い形で、みんな同じような絵になる。これは、つまり文字などと同じ記号を頭の引き出しから出してきているだけで、脳をほとんど使っていないんです。でも、臨床美術は実際にリンゴの匂いを嗅ぎ、食べ、リンゴにまつわるエピソードを思い出してもらったりしながら、五感を使って表現することで脳が活性化する。だから、極端にいえば、作品は真っ黒なリンゴでも構わない。重要なのは、創作活動のプロセスなんです。私自身、美術を障害者支援に活かせないかと試行錯誤してきましたが、絵が苦手でも誰でも楽しみながら取り組める臨床美術との出合いは目からうろこでした」

ただ、導入当時、臨床美術の実践例は高齢者施設や保育園などが中心。精神障害をはじめ障害者支援の現場ではほとんど前例がなく、「最初は半信半疑だった」と赤嶺さん。しかし、楽しそうに創作活動に取り組む当事者たちの変化を見て、プログラムの有効性を感じるようになったという。

「実際の創作では、臨床美術士が参加者一人ひとりに応じた働きかけを行い、どんな作品も絶対に否定しない。黒いリンゴでも『重量感があって果汁が詰まっていそうですね』とよいところを見つけて、とにかく褒めるんです。褒められ、共感を得た喜びは次の活動のエネルギーになり、そこに豊かなコミュニケーションが生まれる。特に障害者は否定経験を持つ人が多く、精神障害は関係性の病ともいわれる中で、臨床美術のエッセンスである一人ひとりにカスタマイズする手法、褒めることで高める自己肯定感、創作活動を通じて得られる対等で信頼感のある人間関係は、まさに障害者支援のベースに成り得るものでした」

つながり始めた多様な支援者、横断的なネットワーク構築へ

写真:ファイザープログラム臨床美術作品展体験コーナーの様子(2012年)ファイザープログラム臨床美術作品展体験コーナーの様子(2012年)

これまでに臨床美術を実施した対象は、精神障害者や発達障害児、ダウン症児、就労困難者などさまざま。各支援団体の協力のもと、それぞれの障害特性に応じたプログラムを提供し、創作活動後は県立美術館のギャラリーなどを使用した作品展示会も開催している。

「自分の絵が美術館に飾られる経験は、本人の自己肯定感を高める一つのきっかけになる。特に精神疾患者は、楽しめる趣味を持っていないことが一つの特徴でもあるので、臨床美術の経験が人生を楽しむ契機になってくれれば」と祖根さん。

また、昨年にはファイザーの助成を受けて、幅広い障害者を対象に臨床美術のプログラムを提供するとともに、福祉や教育、医療などで活躍する支援者向けの研修会を初めて実施した。分野の垣根を超えて、臨床美術のエッセンスを広く伝えることが目的だったが、研修会やワークショップには学校教員や看護師、福祉施設職員、作業療法士など多様な支援者が参加。助成2年目となる今年は、臨床美術を通じてつながり始めたメンタルヘルスケアのネットワーキングにも取り組むと赤嶺さんは言う。

「たとえば、精神保健の分野では基本中の基本である技術や情報が学校現場ではまったく知られていなかったりして、横断的なネットワークの構築は団体設立当初からの目標でした。障害の種別を越えてアプローチできる臨床美術を通じて、今年中には勉強会を立ち上げ、情報を共有化した新たな支援体制を築いていけたらと思っています」

どうすれば精神疾患を予防できるのか。考えていくうちに、大人から学生、そして子どもへとたどりついたという赤嶺さん。将来的には、発達障害児の支援にも取り組みたいという。

「もとをたどれば、子どもの頃に現れる人とは違う個性が、後々の社会での生きにくさにつながっている。でも、発達障害の支援は沖縄県内ではまだ確立されたものがないので、臨床美術もうまく活用しながら支援スキルを高めていきたい。それが、結果的に精神障害の予防にもつながると思っています」

NPO法人 沖縄県福祉ネットワーク協会

「心の健康」をテーマに、09年9月に設立。精神疾患の予防を目標に、翌10年より誰もが楽しい時間を過ごせる居場所づくり「ワーク&カルチャーハートワークス」の活動を開始。障害の種別を超えたメンタルヘルスケアの一環として、「臨床美術」のアートプログラムを取り入れている。

TEL/FAX : 098-911-8621

※名称・団体名はTHE BIG ISSUE掲載当時のものです。

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