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2016年度助成団体 THE BIG ISSUE掲載記事

人気! 町の便利屋、お弁当の宅配、風のマフラー
ひきこもり、心身の障害で働けない人たちの社会参加を応援する“小さな作業所”
-NPO法人ワークハウス雲

岩手県一関市東山町。日本百景の一つ「猊鼻渓げいびけい」の近くで、ひきこもりや心身の障害で働けない人たちが社会復帰するための場を作る「ワークハウス雲」。宅配弁当、便利屋、ものづくり……と、どのように活動の幅を広げてきたのか。現場を訪ねた。

始まりは3人の作業所から ヘルシーな「『雲』の弁当屋」開業

画像:代表 渡邉 知子さん 代表 渡邉 知子さん
画像:お弁当

「ワークハウス雲」代表の渡邉知子さんは神奈川で小学校の教員を26年間務めたが、50歳になったのを機に地元・仙台へ戻り、知的障害児教育に携わった経験を活かして障害のある人の居場所を作ろうと決意。そこで「岩手は作業所が少ない」と聞き、拠点を岩手に移した。

「そんな折、知的障害や精神障害、ひきこもりの20代女性3人をみてほしいという保護者からの依頼を受けて1998年、週に1度集まってレクリエーションを行う『サークル雲』を立ち上げました」

評判は口コミで広がり、利用メンバー(以下メンバー)が6人に増えたので、一関市東山町の山中に自宅兼作業所を建てて2002年、「NPO法人ワークハウス雲」を設立した。「粘土質の土壌に苦労しながらハーブを育てたり、犬や猫、やぎを飼って触れ合ったりしましたが、それだけでは社会性が育たないと思い、町に進出しました」

商工会が無償で提供してくれた空き店舗で、知人が提供してくれた洋服や日用品などを販売。そのうち商工会の女性部が「雲の母ちゃんの会」を結成し、販売用のコロッケなどを手作りしてくれるようになった。

2010年には、東山町内の一軒家を借りることができたため、調理師と栄養士の資格をもつ「雲の母ちゃんの会」の仲間と一緒に「『雲』の弁当屋」を始めた。弁当は火曜と金曜の週2回、事前に予約を受けた40~60個を作る。

「近所の女性3人が調理の有償ボランティアに来てくれて、当番のメンバー4人が調理の手伝いや盛りつけ、収益の計算などを分担。メンバーの中の男性が上手に魚をさばいてくれるので頼りにしています」

弁当は一般的な「四季彩弁当」のほかに「市販の弁当は揚げ物ばかり」という高齢者の声を受けて、魚中心の「ヘルシー弁当」などを町の独り暮らしの高齢者や店を空けられない商店主のもとに届ける。手伝ったメンバーには1日600~800円の報酬が支払われる。

草取り、包丁研ぎ、犬の散歩…… 人気の便利屋「猫の手サービス」 女性は「猫の手工房」立ち上げる

写真:独り暮らしの高齢者にお弁当を配達(写真左) / 売り上げの計算もメンバーの仕事(写真右)独り暮らしの高齢者にお弁当を配達(写真左) / 売り上げの計算もメンバーの仕事(写真右)
写真:作業ごとに担当を割り振る(写真左) / ボランティアの人たちと一緒にお弁当を盛りつける(写真右)作業ごとに担当を割り振る(写真左) / ボランティアの人たちと一緒にお弁当を盛りつける(写真右)

現在、「ワークハウス雲」のメンバーは、精神障害やひきこもり経験をもつ28~56歳までの14人。遠方から通う人は、有償の運転ボランティアが車で送迎する。

「メンバーの多くは真面目で勤勉。働く能力はあるけれど、人間関係でつまずいた人たちです。10代・20代の若者は、自信をつけると社会に出るのも早い。たとえば、不登校の後ひきこもっていた男性は『雲』で働いた後、お母さんの心配をよそに東京へ出て、今はアルバイトをしながらバンド活動に励んでいます」

東山町には舟下りで有名な「猊鼻渓」という渓谷があるが、世界遺産・平泉への通り道でもあるため長居する観光客が少なく、他に働く場も少ないという。「若者が出ていき、高齢化が進み、町はシャッター通りになりつつあるんです」

ある時、弁当の配達時に、89歳のおばあちゃんから庭の草取りを頼まれた。

「おばあちゃんは宮城県牡鹿半島の家が東日本大震災の津波で流され、大家族がばらばらになり、足手まといになりたくなくて、故郷の東山町に戻って独り暮らしを始めたそうです。メンバーの若者たちが草取りを手伝うと『これからも頼みたいから』と、お礼をくださいました」

ここから生まれたのが、依頼人が頼んだ仕事の対価として1時間500円を支払う「猫の手サービス」という便利屋事業だ。依頼内容は幅広い。庭や畑の草取り、ジャガイモ掘りや柿もぎ、包丁研ぎ、犬の散歩。夏は墓掃除、年末にはガラス拭きが増える。

「お弁当を届ける際にお年寄りとゆっくり話したかったけれど、できるだけ温かいうちに届けたいから話せませんでした。でも猫の手サービスなら時間があるから、お菓子や飲み物を用意して待っていてくれます。高齢者からの『あんちゃんたちが来てくれて助かるよ』の一言が、メンバーの支えになっています」

仕事によってはメンバー2、3人で行くこともある。2人目以降の報酬は団体が負担しているが、この仕組みが実現したのは、15年にファイザープログラムの助成を受けたからだ。それまでは、調理などの有償ボランティアへの謝礼が予算の3分の1を占める財政状況の中でなかなか踏み切ることができなかったという。

「猫の手サービス」に励む男性メンバーに触発されて、女性のメンバーも「猫の手工房」を立ち上げた。「現在、バスタオルを利用したサロンエプロンや二重ガーゼの“風のマフラー”を試作していて、町の産直センターではアクリルたわしを販売しています」

自動車免許で就職への意欲 存続の危機、広報に注力 町に溶け込む「小さな作業所」こそ

さらに、メンバーの1人を「弁当を作る前日に調理器具の殺菌消毒をするサブスタッフ」として採用。報酬を貯蓄して自動車免許を取ることを奨励し、弁当配達ができるようにしている。15年に採用された20代の男性は免許を取ったことで就職への意欲が湧き、中間就労を体験できる作業所へと移った実績もある。

昨年は「不登校を機にひきこもり、6年前にここへ通い始めて以来、一言も発していない20代の男性」を採用。「彼は魚をさばかせても何をさせても器用で、調理の女性たちにかわいがられ、免許を取ったことで、さらに自信をつけたのか笑顔を見せるようになりました。今ではiPad(タブレット型端末)に文字を打って、効率のいい作業方法まで提案してくれるようになり、みんなから信頼されています」

2度目の助成となる今年は広報に力を入れている。ポスターやチラシを作り、商店などに配布することで、活動を広く知ってもらう予定だ。というのも「ワークハウス雲」は今、存続の危機を迎えている。

「就労継続支援B型作業所の認定を目指したこともありましたが、東日本大震災が起きて行政に余裕がなくなり頓挫しました。施設利用料と保護者や正会員からの会費、支援者の寄付で運営してきましたが、保護者が高齢化し総会に参加できなくなってきたため、昨年からはメンバー自身を正会員としています」

渡邉さんの後継者がいないことも課題だが、「メンバーの中には、規模の大きな作業所で指導員の心ない言動に傷ついてきた人も多く、後継者選びには慎重でありたい」と渡邉さんは言う。「きめ細やかな対応ができる小さな作業所の重要性をもっと知ってほしい。私たちのような小さな作業所を増やしていくことで、障害のある人たちが地域により溶け込めるようになるということを、活動を通して実証していきたいと思っています」

写真:看板

NPO法人 ワークハウス雲

1998年に「サークル雲」として始まり、2002年に法人格を取得。心身に障害のある人、ひきこもりの人、社会に適応できないために就労できない人が共に活動することで互いに成長し、意欲をもって生活できるようにするための親睦と社会復帰を目的とする作業所。

TEL :090-7073-4985(渡邉)

※名称・団体名はTHE BIG ISSUE掲載当時のものです。

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