いま、現在の医学では治すことが難しい希少疾患の患者さんが「遺伝子治療」の実現を待っていることを、ご存じですか? 「遺伝子治療」自体は、すでに世界で10万人以上の患者さんがその治療を受けていますが、ファイザーでは、希少疾患に対するこの最先端の治療薬の開発に、世界中の研究者と一緒に取り組んでいます。
新しい治療法だからこそ「ハテナ?」も多い分野ですが、皆さんに正しく理解し、応援してほしいという気持ちをこめたコラムをシリーズでお届けします。
第2回は、本領域におけるパイオニアかつ第一人者のお一人である九州大学・米滿吉和先生のインタビュー(後編)をお届けします。(第1回はこちらから)
米滿先生(左端)と、米ファイザー本社&日本の社員たち(米国遺伝子細胞治療学会/ASGCTにて)
INDEX
これまでの医学では治すことが難しかった遺伝性疾患にも、高い治療効果が期待できる遺伝子治療。その開発の歴史は、1980年代までさかのぼります。基礎研究からスタートし、やがて90年代に入ると、実際の患者さんを対象とした治療も始まります。
当時、医師免許を取得してキャリアをスタートしたばかりだった米滿先生は、「海外の論文誌には遺伝子治療に関する研究論文が次々と掲載され、わたしも夢中になりました」と振り返ります。遺伝子治療の世界をさらに極めたいと考えた米滿先生は、日本を飛び出しインペリアル・カレッジ・ロンドン(英国)に留学。そこで嚢胞性線維症という希少疾患に対する遺伝子治療の可能性を追究されました。
ただし、関係者の熱い期待から一転、遺伝子治療の世界は「冬の時代」を迎えました。当時について、米滿先生は「実際に治療に用いた際に、継続した効果を証明することが難しいというケースが多かったのです。研究予算も削られる一方となり、多くの研究者が遺伝子治療の世界から去っていきました」と振り返ります。
しかし、一部の研究者はあきらめることなく、遺伝子治療の可能性を追究。次第に結果が出るようになり、2012年には世界初の遺伝子治療製品も登場。現在では、血友病、多発性骨髄腫、脊髄性筋萎縮症など、それまでの医学で治せなかった疾患に対する遺伝子治療薬が続々と登場しています。
そんな遺伝子治療の現在地について、米滿先生も「深く、長い研究期間を経て、ようやくここまで来られた。たとえば、寝たきりの患者さんや、生涯において通院・治療が必要だった患者さんが、一回の治療によって歩いたり日常生活を普通に送れるようになることもあります」と笑顔を見せます。
米滿吉和先生
研究者の長年の努力が実を結び、ついに実際の患者さんへの治療が始まっている遺伝子治療。もちろん、遺伝子治療には克服していくべき様々な課題もあり、研究は続きます。米滿先生は、その課題の1例として「現在は生涯に1回しか利用できない」点を挙げます。その理由は、正しい遺伝子を体内に運ぶ役割を担う「ウイルス」の存在。ウイルスを“運び屋”に用いることで、人間の体内に「抗体」と呼ばれる防衛機能が働き、同じ治療を繰り返しても、せっかく注入したウイルスが抗体によって排除される可能性が高いのです。
米滿先生は「遺伝子治療では、これまで以上に治療を受けるべき患者さんかそうでないのかの判断が必要になります」と指摘。その一方で、将来的には抗体の問題も、新たな技術によって解決できるだろうとの明るい展望も示しました。
遺伝子治療に対しては「もし遺伝子治療で遺伝情報を変更した場合、子どもたちにまでその影響が受け継がれるのか?」というような質問も聞かれます。これに対して米滿先生は「現時点では、子どもに影響が及ぶような遺伝子治療は、世界中のどの国も認めていません」と断言します。その上で「今後さらに技術が発達すれば、血友病など代々受け継がれる遺伝性疾患を、遺伝子治療によって根絶できる可能性があるかもしれません。そのときは改めて議論する必要があるでしょう」と語りました。
遺伝子治療が抱える課題として、価格と、治療を必要とする方誰もが受けられるようにする体制づくりも重要です。米滿先生は「遺伝子治療は、従来の治療と比べれば高額な治療ですが、生涯にわずか1回の治療で高い効果が期待できるという利点もあります」と指摘。
ファイザーも、早期から遺伝子治療の開発に多額の投資をし、新たな治療法を必要とする方々にブレークスルーをお届けすべく、遺伝子治療において世界をリードするというコミットメントを掲げています。
事実、過去6年間で8億ドル(約1,000億円に相当)以上の資本を投下。さらに米国に3つの遺伝子治療開発・製造拠点を設置して、研究開発段階から、製造、流通を経て最終的に患者さんに届くまで、高品質を維持しながら遺伝子治療薬を生産できる体制の整備を進めています。
遺伝子治療の未来について、米滿先生は「患者さんとご家族、支援団体、そして医療従事者と製薬企業のそれぞれが密接にコミュニケーションを取りながら、本当に求められる遺伝子治療とは何か?を一緒に話し合い、全員参加で課題を乗り越えていく必要があると考えています」と語ります。
英国留学では、現地の患者団体とも一緒に仕事をした経験から、「研究者と患者団体の方々が率直に意見をやり取りする風土には、最初はおどろかされました」と振り返ります。
その上で、「日本でも、日本の患者さんの多様なニーズに応えるべく、密接にコミュニケーションを取っていきたいし、また海外と時間差なく遺伝子治療を国内の患者さんにも届けられるように、関係者が垣根をこえて連携し、協力していくべきだと思います」と強調しました。
関連リンク
■ 遺伝子治療のハテナ 第1回「教えてください!米滿先生~前編~」
https://www.pfizer.co.jp/pfizer/company/external-communication/2023-08-23
■ 一般社団法人 日本遺伝子細胞治療学会
https://www.jsgct.jp/
■ 遺伝子治療情報サイト なるほど!遺伝子治療
https://www.genetherapy.today/disease/